東京高等裁判所 昭和48年(う)315号 判決
被告人 太田久夫
〔抄 録〕
しかし、刑法二五条一項一号にいわゆる「前ニ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコトナキ者」とは、現に審判すべき犯罪につき、刑の言渡をする時を基準として、それ以前に他の罪につき確定判決により禁錮以上の刑に処せられたことのない者を指すのであって、現に審判すべき犯罪がさきになされた確定判決の前に犯されたものであると、後に犯されたものであるとを問わないのである。もっとも、同法二五条一項により刑の執行を猶予された罪のいわゆる余罪については再び同条項による執行猶予を言い渡すことが可能であり(最高裁判所昭和三〇年(あ)第九六一号、同三二年二月六日大法廷判決、刑集一一巻二号五〇三頁参照)、この限度では執行猶予中の再犯者に対する執行猶予が同法二五条二項の厳格な制限に服するのと著しく異なるのであるが、右執行猶予の余罪の場合は、現に審判すべき犯罪と同時に審判することにより全部を一括してもなお同法二五条一項により執行猶予の言渡を相当とする場合もありうるので、余罪についてもひとしく同条項により執行猶予の条件が勘案せらるべきであるという実質的理由があるところから、この場合においては、右条項の「禁錮以上ノ刑ニ処セラレタ」者の中にはかかる刑の執行を猶予された者を含まないと解することにより、右の取扱いが許されるのである。しかしながら、さきに言い渡された刑が実刑の場合には、その余罪と同時審判をすることにより同法二五条一項による執行猶予を言い渡すことはあり得ないから、余罪につき審判をするについて同条項による執行猶予の言渡を可能ならしめる実質的理由はなく、それゆえ同条項の「禁錮以上ノ刑ニ処セラレタ」者からかかる実刑の言渡を受けた者を除いて再犯者に限るという解釈は採用できない。原判決は立法論としてはともかく、解釈論としては採用することができない。
(脇田 吉沢 小泉)